世界最大級の美術館、ルーヴル。
所蔵品は約35万点、展示されている作品だけでも3万5千点に及びます。
初めて訪れると、多くの人は「広すぎて、どこから見ればいいのかわからない」と感じるでしょう。
だからといって、有名作品だけを点で追いかけてしまうと、ルーヴルの大きな魅力である時間の積み重なりや歴史の奥行きには、なかなか触れられません。
この記事では、ルーヴルが辿ってきた「要塞→王の宮殿→美術館」という三つの要素を、時代順に歩く1日ルートをご紹介します。
必見作品についても解説していますので、参考にしてくださいね。
まるで歴史物語の中を歩くように、ルーヴルを体験してみましょう。
ルーブル美術館を1日鑑賞するにあたって

今回のコースは、シュリー翼入口からスタートします。
まずは、このルートについてご説明します。
1日ルートの構成とポイント
静かな古代文明のゾーンから始まり、王の権力とプライベートな空間を抜け、最後にルーブルの心臓部ともいえる名画へ。
テンションが少しずつ高まっていく構成になっています。
このコースは、ほぼ丸一日(6~7時間)と長い時間をかけてルーブルを鑑賞します。
ベンチで休んだり、軽めのランチなどで、休憩しながら進みましょう。
1日ルートの全体像
1日ルートの全体像をかんたんにまとめました。
| 時間帯 | テーマ | 翼 | 主な見どころ |
|---|---|---|---|
| 午前 | 歴史の礎・古代文明 | シュリー翼 | 要塞跡、スフィンクス、ギリシャ彫刻 |
| 昼前 | 王宮の華やぎ | リシュリュー翼 | ニケ、彫刻中庭 |
| 昼 | 軽めのランチ | リシュリュー翼周辺 | 人が分散するエリア |
| 午後前半 | 権力と美の空間 | ドゥノン翼 | アポロンのギャラリー、グランドギャラリー |
| 午後後半 | 絵画と革命のドラマ | ドゥノン翼 | ダヴィッド、ドラクロワ |
ルーヴルは「疲れてから休む」場所ではなく、疲れる前に少し立ち止まるのがコツ。
特に、午後のドゥノン翼は情報量が多いため、午前中のうちに体力と集中力を温存しておくといいでしょう。
歴史のはじまりへ(シュリー翼)

ガラスのピラミッドの真下からチケットコントロールを通過し、シュリー翼に入っていきましょう。
1.中世の要塞跡
ルーブルは、もともと美術館ではありません。
以前はフランス王家の宮殿、さらにさかのぼると、パリを守るための要塞でした。
入館してすぐ地下へ降りると、レンガがむき出しの、少しひんやりした回廊が現れます。
リナこれが12世紀のルーブルの姿です。
石のブロックをよく見ると、ハート形などの刻印が残っています。
これは中世の職人たちが、自分の担当部分を示すために刻んだ印。
800年以上前の「仕事の痕跡」が、今も静かに残っているのです。
2.タニスの大スフィンクス
要塞跡を抜けると、空気が一変します。
そこに現れるのが、巨大なタニスのスフィンクス。
紀元前2500年頃、古代エジプト・タニスで作られたこの像は、王の顔と、太陽神を象徴するライオンの身体を併せ持っています。
これは、王が神と一体の存在であることを示す表現。
文明のスケールと、権力の大きさに、思わず立ち止まってしまいます。


3.古代ギリシャ彫刻
スフィンクスの奥へ進むと、白い石の世界が広がります。
アテナ、ゼウス、アフロディーテ、キューピッド……。
紀元前5〜4世紀のギリシャ彫刻が並び、身体を自然にひねったコントラッポスト(身体をひねった自然な立ち姿) をじっくり鑑賞できます。
古代ギリシャの展示は、彫刻作品ばかりです。
石の彫刻だけが、時代を超えて残ったということを、改めて実感します。


4.『ミロのヴィーナス』
古代ギリシャ彫刻の最高傑作のひとつです。
優雅なS字ラインは、ヘレニズム期ならではの表現。
実はこの像、上半身と下半身を別々に作って組み合わせたツーピース構造になっています。
巨大な大理石を効率よく扱うための、当時の合理的な制作方法でした。
この作品が有名になったのは、当時の展示戦略にあったともいわれていますよ。


ここで一度、短い休憩を。
展示室のベンチに腰掛けて、古代のゆったりした時間を感じてみてください。
大階段と傑作群(リシュリュー翼)


シュリー翼を抜けると、空気が一気に華やぎます。
ここからは、「王の宮殿」としてのルーヴルが本領を発揮します。
5.『サモトラケのニケ』
大階段を上り切った瞬間、視界が開け、翼を広げた勝利の女神ニケが現れます。
ルーブル美術館が誇る必見作品の一つですね。
船の舳先に舞い降りる一瞬を捉えたこの彫刻は、今にも風が吹き抜けてきそうなほどの躍動感。
何度見ても胸が震える場所です。



スポーツブランド「NIKE(ナイキ)」は、この勝利の女神の名に由来しています。


6.マルリーの中庭
ガラス天井から光が降り注ぐ、白く開放的な空間。
『マルリーの馬』をはじめとする17〜18世紀フランス彫刻が、のびやかに配置されています。
人も比較的少なく、ルーブルの中で深呼吸できる数少ない場所。



写真を撮るのにもおすすめです。
8.ハンムラビ法典
紀元前18世紀、古代バビロニア王国で作られた法典。
石碑の上部には、太陽神シャマシュが、ハンムラビ王に「権力」と「秩序」を授ける場面が刻まれています。
「目には目を、歯には歯を」で知られますが、本来の意味は、過剰な復讐を禁じるためのルールでした。


9.コルサバードのラマス
紀元前8世紀、古代メソポタミアを統一した新アッシリア帝国の王様サルゴン2世によって作られた宮殿の一部が再現さ れています。
宮殿の入り口を守っていた像が、高さ約4メートルのラマス。
人の頭、翼、牛の身体を持つ巨大な守護神です。
古代文明のスケールに、ただただ圧倒されます。


10.ナポレオン3世のアパルトマン
一気に時代は19世紀へ。
ここはナポレオン3世自身の住居ではなく、彼の政権を支えた重臣のための社交空間でした。
ナポレオン3世の権威と当時の華やかさを象徴する場所として利用されたのです。
黄金のシャンデリア、真紅のベルベット、鏡張りの壁。
ベルサイユを思わせる豪華さですが、実は「豪華さと経済性」を両立させた第2帝政らしい工夫が随所に見られます。
この辺りで軽めランチのタイミング。
「カフェ・リシュリュー・アンジェリーナ」はモンブランが有名ですが、軽食もありますよ。
静けさと光の精密さ:北部ヨーロッパ絵画(リシュリュー翼)


15〜17世紀のフランドル、オランダ絵画が並ぶゾーン。



名作揃いなのに比較的人が少なく、じっくり鑑賞できる穴場です。
北部絵画特有の静けさと光の精密さをじっくり味わえます。
11.ヤン・ファン・エイク『宰相ロランの聖母』
15世紀のフランドル(ブルゴーニュ公国)作品です。
超絶的な写実性と象徴的な意味の深さが見所。
写真のようだと評されるニコラ・ロランの顔や、聖母マリアの深紅のマントの美しいグラデーションには、目を見張ります。
ロランの懺悔やイエスの生涯、世俗の世界と神の国をつなぐ「救済の物語」を表現しています。


12.ルーベンス『マリー・ド・メディシス連作』
17世紀のフランドル作品です。
この部屋を埋め尽くすのは、王妃マリー・ド・メディシスのために描かれた全24点の巨大連作。
マリーは政治的にあまり人気がなかったため、ルーベンスは、“神話の力”で彼女の人生に権威を付け加えました。
たとえば代表作《マルセイユ上陸》では、海の神ポセイドンや勝利の女神ニケが、王妃の到着を盛大に歓迎。
現実にはありえない豪華さですが、これは「女神に認められるほど偉大な王妃だった」というイメージ戦略のひとつです。



神話と融合した華麗な伝記といえるでしょう。


13.フェルメール『レースを編む女』
17世紀のオランダ作品です。
息を潜めて覗き込むほどの小ささ。
集中の空気まで描き込まれたような静謐さがあります。
余計なものを一切排除した画面構成と、極度の集中と静寂を表現しています。
絵画に近づいて細部を見ようとすると、自然と絵の中の女性と同じような「極度の集中」が必要になる。



フェルメールは、このように作品にトリックを仕掛けたのです。


14.レンブラント『バテシバの水浴』
17世紀オランダの作品です。
背景は暗い部屋で、女性の裸体には強い光が当たっています。
影と光のコントラストを強烈につけるドラマティックな演出は、レンブラントの大きな特徴の一つ。
旧約聖書のエピソード(ダビデ王からの求愛)が主題ですが、レンブラントは水浴の様子よりも、女性の心の内側の動きをリアルに描くことに注力しています。
うつむいた物憂げな表情は、王の命令に従わなければならない苦悩と、最終的に王の元へ行く覚悟を決めた瞬間の複雑な心情を表現しています。


ルーブルの「心臓」を歩く(ドゥノン翼)


「権力×美×感情」が一気に噴き出すゾーン。
ドゥノン翼は、作品そのものだけでなく、空間の演出そのものがメッセージになっている場所です。



いよいよルーブルのクライマックスへ向かいます。
15.アポロンのギャラリー
ルーブルの中で「最も美しい空間のひとつ」と称されるのが、アポロンのギャラリー。
もともとは、ルイ14世(太陽王)のために設計された祝祭的な回廊です。
天井画、金箔、装飾、すべてが「光」をテーマに統一されています。
太陽が世界の中心にあるように、世界は王のまわりを回っている。
そんな絶対王政の思想が、空間全体から伝わってきます。
現在は、フランス王家の宝石コレクションが展示されており、王権と美が結びついていた時代の象徴的な場所でもあり
ます。



2025年10月の盗難事件の舞台は、このアプロンのギャラリー。
ナポレオン時代の9点のフランス王室の宝飾品(ティアラ、ネックレス、ブローチなど)が盗まれました。
アポロンのギャラリーを抜けると、視界が一気に横へ、奥へと開けます。
ここが、ルーブルを象徴する空間グランド・ギャラリー。
全長約460メートルの長い回廊に、イタリア絵画が年代順に並びます。
歩くたびに、時代が少しずつ進んでいくのが体感できる構成です。


16.ジョット『聖痕を受ける聖フランシスコ』
中世からルネサンスへの扉を開く作品。
人物が「記号」ではなく、感情をもつ人間として描かれ始めた瞬間です。
遠近の意識、身体の重み、後のルネサンスにつながる芽が、確かに見えます。


17.レオナルド・ダ・ヴィンチ
この回廊の中核を成すのが、ルネサンス盛期のスターたち。
その中でも、レオナルド・ダ・ヴィンチは、スーパースターといっていいでしょう。
ルーブルにはダ・ヴィンチ作品が5点所蔵され、そのうち4点がこのグランド・ギャラリーに並びます。
初期から最晩年までの作品が同じ空間にあるため、ダ・ヴィンチが生涯をかけて追求した「スフマート」などの技法の進化を体感することができます。
- 『巌窟の聖母』
- 『洗礼者ヨハネ』
- 『美しきフェロニエール』
- 『聖アンナと聖母子』



『モナ・リザ』はこの先の展示室です。
どの作品にも共通するのは、現実と幻想の境界が溶けるような空気感。
ミステリアスな雰囲気に、惹きつけられます。


18.ラファエロ
調和と美の完成形。
ラファエロの聖母像には、神聖さと人間的なやさしさが、同時に宿っています。
- 『美しき女庭師』
- 『聖ミカエルとサタン』
- 『バルダッサーレ・カスティリオーネの肖像』


19.カラヴァッジョ
ルネッサンスの後に続くのが、バロック。
カラバッチョは、バロックの先駆けを象徴する巨匠です。
強烈な光と闇。
理想よりも、生々しい現実を描いた画家です。
- 『聖母の死』
- 『女占い師』
- 『アロフ・ド・ウィニャクールと小姓の肖像』


20.モナ・リザ
グランド・ギャラリーの先にあるのが、ルーブル最大の混雑ポイント『モナ・リザ』。
この記事では、時代順のコースをご紹介していますが、『モナ・リザ』を朝イチに観てから、逆回りする方も少なくありません。
小さな絵なのに、空間の空気を変えてしまう不思議な存在。
スフマートによる柔らかな輪郭と、謎めいた微笑みが、世界中の人々を惹きつけます。
1911年の盗難事件と、その後の発見騒動という2度の世界的なスキャンダルによって、世界で最も有名な絵画となりました。



2031年完成予定のルーブルの大改修で、『モナ・リザ』は専用の展示室に移され、特別なチケットを購入が必要になります。


21.ヴェロネーゼ『カナの婚礼』
「モナ・リザ」の真正面に展示される高さ約7m、幅約10mのルーブルで一番大きな絵画です。
「カナ」での結婚式に出席したイエスが、水をワインに変えるという奇跡を見せた場面です。
「絵の中の宴が、現実の食卓へ続いている」そんな錯覚を起こすための、視覚的トリックが仕掛けられています。
食堂に座る修道士たちは、毎日イエスと同じテーブルで食事していると感じられたことでしょう。



静のモナ・リザと、動のカナの婚礼の対比が、おもしろいですね。


フランス王家と革命のドラマ(ドゥノン翼)


ここからは、歴史の激情が前面に出てくるエリアです。
22.ダヴィッド『ナポレオンの戴冠式』
1804年にパリのノートルダム大聖堂で行われた、ナポレオンの皇帝戴冠式。
その様子が描かれた幅約10m、高さ約6mの巨大絵画です。
ナポレオンがローマ教皇から王冠を奪い取り、自分で自分に戴冠したという有名なエピソードを、あえて避けて描かれています。
ナポレオンが妻ジョゼフィーヌに王冠を授けるという構図には、ナポレオンも絶賛しました。



史実すら上書きする、皇帝の大胆なイメージ戦略ですね。


23.ジェリコー『メデューズ号の筏』
ロマン主義を代表する大作。
当時のフランス社会に大きな衝撃を与えたメデューズ号の座礁事件が主題です。
縦5m、横7mという巨大なキャンバスに、極限の状況下にある人々を描かれています。
ジェリコーは生存者から話を聞き、本物の死体の一部を参考にするなど、その劇的なリアリズムを追求しました。
この作品は、当時の古典主義的な美の規範(理想美)を打ち破り、「醜いものの中に真実と美がある」ことを証明したのです。
ロマン主義の美学を確立する「絵画革命」を起こしたのです。


24.ドラクロワ『民衆を導く自由』
舞台は1830年の七月革命。
フランス革命以前の世界に戻そうとしたシャルル10世に対し、パリ市民が自由を守るために立ち上がりました。
中央の女性は、目に見えない「自由」を擬人化したアレゴリーです。
農民、富裕層、労働者、そしてピストルを持つ子供まで、あらゆる階層のパリ市民が屍を乗り越えて自由の後に続いています。
まるで、激しい嵐の中を突き進む船の舳先に立つ旗手のよう。
目に見えない理想である「自由」が、あらゆる人々を束ね、屍を乗り越えて未来へ向かおうとする。
その瞬間の熱狂とエネルギーを凝縮しているのです。


このあと、「カフェ・モリエン」で休憩してもいいでしょう。
テラス席からは、ルーブルの宮殿建築を眺めながら一息つくことができます。
25.ミケランジェロ『抵抗する奴隷・死にゆく奴隷』
教皇の墓を飾る計画が縮小されたため未完成となった作品です。
見どころは、あえて残された「未完成」の美学。
石の中に閉じ込められた魂を解き放とうと格闘した、生々しいノミの跡を直接見ることができます。
この像は、「理性が欲望の奴隷になっている人間」を象徴しています。
欲望に身を任せる姿と、神に近づこうと抗う姿を対比させ、鑑賞者に「自分はどちらの生き方を選ぶのか」と問いかけているのです。
肉体という牢獄から魂を救い出そうとした、巨匠の情熱が刻まれた傑作です。


26.カノーヴァ『プシュケ』
最後に、均整の美と感情のやさしさが共存した名作をご紹介します。
18世紀後半から19世紀初頭に、主流となった新古典主義を象徴する作品です。
愛の神キューピッドが、死んだプシュケに接吻し、命を蘇らせる瞬間が表現されています。
プシュケの髪の毛や、キューピッドの持つ矢筒、羽の一枚一枚までが非常に細かく彫刻されていて、全体のバランスも素晴らしく計算されています。
愛する人との再会の瞬間を捉えた感動的な傑作です。


旅の終わりへ
正面に大きな階段が見えてきますが、この階段を上がると『サモトラケのニケ』の方向へ行ってしまいます。
出口へスムーズに向かうためには、この階段を避け、「Sortie(出口)」の表示がある方向へ進みましょう。
ドゥノン翼のチケットコントロールを抜けると、ガラスのピラミッドの下に着きます。



この後、お土産を探すのも楽しいですよ。
ルーブル美術館は、ガイドさんの説明してもらうと、ぐっと理解が深まります。
「Get Your Guide」では、入場チケットやガイドツアーなど、さまざまなオプションが用意されています。
参考にしてみてくださいね。
ルーブル美術館の余韻
一日かけて歩いたルーブル美術館。
見た作品の数よりも、心に残った風景や感情のほうが、あとから静かに浮かび上がってきます。
圧倒されるほどの美に出会ったり、ふと立ち止まって考え込んだり。
ルーブルは、知識がなくても、驚きや気づきがあるはず。
しかし、作品の背景をしると、もっといろんな方面から楽しむこともできるでしょう。
次にパリを訪れるとき、「ルーブルはもう観なくていい」と思うのか「パリに行くたびに鑑賞したい」と思うのか。
ルーブルでの経験は、時間をかけて、あなたの中で育っていくことでしょう。
Bon voyage!



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